ネルシャツ、ジャケット、ワンピース、タータン柄のプリーツスカート、ブロックチェックのバッグに財布、帽子やマフラー、靴にまで...みなさんのクローゼットにはチェック柄のコレクションがたくさんあることでしょう!
そしてチェッカホリックに共通してるのがファッション好きって事!ショップで、ネットで、ときには姉のワードローブで(笑)、運命の出会いをした仲間がいっぱいいるはずです。
全身をチェック柄で埋め尽くしたい衝動はさておき、チェック柄の服を着こなすにはチェック以外の服が必要です。チェックを引き立てチェックで引き立つ、そんな相乗効果のあるアイテムを探しに行きましょう!
チェック柄の一番似合う表現とは何か...
チェック柄は、布地に織り出した時こそいちばん輝きます。
チェック模様がこの世に生み出されたきっかけが布地だったと推測すれば、それは魚が海で活き活きとして泳ぎ回るように当然です。
古来人間の生活とは、智慧と組織力を武器にした自然相手の戦いでした。そういう中で創られたものは、土器なら火炎を模され、洞窟には動物絵が描かれ、最古の文字もスケッチをデフォルメした表意文字。古代の文化は常に自然の模写をともないました。しかし、チェック柄を匂わす自然現象は存在しません。縦×横の直線的な交差のデザインは純粋に人間の発明。バベルに至る人間由来の創作物への一歩:チェック柄は、人間の体躯を飾るにふさわしい原始の力を秘めている...かもです。
たくさんの人工物に囲まれた現代の生活。平面のあるところすべてをキャンバスとすれば、色彩デザインをほどこせる面はたくさんあります。その中で反射の少ないマットな質感、かつ直線的な凹凸が作る畝が縦横に走る面、すなわちチェック柄を魅せるに相応しい面には織物・布地が最適です。
縦糸・横糸に乗って流れる色彩の血潮。光は色を艶やかにし、影はまろ味を与える。色束が交差する四角いエリアは、整然と並んだドットが混色を起こし、透明感も加える。
裁断した布地を纏う文化がこの世から消えない限り、チェック柄はファッションとともに繁栄するのです。
もっとも単純な格子模様、それがブロックチェックです。
もともとブロックチェックとは市松模様のこと。ダミエとも呼ばれるチェス盤のような柄を差していました。現在では等間隔の二色縞が交差したものも含めてブロックチェックといいます。また斜めの畝が強く出た千鳥格子も、二色同割で入れ替わるので仲間といえます。
縞が太めのモノは特にバッファローチェックと呼ばれますが、これは元来“赤×黒”のチェックです。その色もどっしりとした幅も強く男性的なイメージ、まさにバッファローですね。現在ではカラーバリエーションとして“黒×α”のものを含めてバッファローと呼び、あるいは「ブロックチェック」といえば、まずこのバッファローの事をいいます。
対照的に繊細で女性的なのがギンガムチェック。細めの縞が重なった“白×α”のカラーリングは明るく、透明感があります。また元来は細い“白×α”だけをさしていましたが、現在では綿布に施される透明感を帯びた縞は、大体ギンガムと呼ばれます。
バッファローのインパクトは強めのファッションコーデ、特にパンク系には欠かせない挑戦的な表現力があります。またサラ糸・白糸を50%含んだギンガムは、それゆえの清潔感を帯びているため、ガーリーなファッションコーデや下着・エチケット用品にまで使われます。
“シンプル”な原則はアレンジの幅が広いものです。市松から千鳥、ギンガム、バッファロー、それぞれの味わいを50:50の色使いで引き出す明解さ。単純だからこそ楽しめるのがブロックチェックの世界です。
チェック柄は文化です。故に人間臭いものです。
直線と直線が組み合わさって直角に交差し整然と繰り返す...なんたる機械的な仕草!スカしたヤツ!それでもチェック柄は文化です。リピートの中にさまざまな表情が詰め込まれたアートといえます。
これまでいろんなファッションアイテムにたくさんの格子柄が施されてきました。どれでも構いませんから比べてみてください。青のチェックと赤のチェックの違いを、線の細いモノと太いものの印象の差を。そしてお気づきでしょうか?色数の多いチェックの賑やかさや、リピート幅の広い格子の大らかさに。
音楽のように豊かな縞の繰り返し、そのフォルム。見るだけでホッとしたりキリッとするカラーバランス。直線と角度の絶対的制約の中で、様々な色と線がイメージのマジックを仕掛けています。
チェック柄は文化です。背後にはデザインした人間の、「着飾る」や「楽しむ」を生み出す意図や想いが見え隠れする表現です。せっかく身に着けるなら、チェック柄の表現力を自分の言葉のようにしてアピールしていきたいものです。
チェック柄は縦横のストライプを組み合わせた柄です。ではストライプのインスピレーションはどこから来たのでしょう。それはやはり、材料の中にあったのではないでしょうか。
天然の繊維を原料に紡いだ糸は、必ず色のばらつきが出ます。しっかりと染色しない限り、濃淡の差が生まれるのです。それを織り・編み込んだ際、一段ごとに不揃いな色が折り重なって見えるはずです。今でいうツイードのような見栄えです。気の利いた先人はそれを見て、不揃いな色差を「意図的な」色差にしたらどうだろうと思いついたのでしょう。色の濃い糸と薄い糸、あるいは違う色で染めた糸を交互に並べたセーターを、先人は自慢げに着ていたかもしれません(笑)。
そう考えるとモノトーンストライプやモノトーンチェックは、余程の年月を経たデザインに違いありません!「トマトに塩をかけると、サラダになる。」のように言えば、「色味で分けた糸を編むとチェックになる。」でしょうか。現在の膨大な種類のチェック柄を研究するように、原初の素朴なチェック柄を探求するのも一興です。
ファッションのような表現する文化には、「盛る様式美」と「削る様式美」があります。要は派手に飾るか、渋くまとめるか、ということです。07'頃の大ブーム以降、チェック柄のファッションアイテムを随分見かけるようになりましたが、同時期に流行ったアニマル柄や、季節ごとに現れるフラワー柄もまた欠かせないデザイン要素として人気があります。これらの盛る様式美のファクター、いわゆる派手カワアイテムは、それぞれ主張が強いので組み合わせて使うことは少ないアイテムです。
ところが昨今の洗練されたコーデでは、色味やトーンを整えることで派手柄×派手柄のコーディネートが普通に見られるようになりました。正直難易度の高いモノですが、これを制すればファッション好きとしても箔がつきます!
「柄モノ×柄モノ」コーデは往々にして、色彩調和の常識を超えたところに調和があるファッションですが、ある一部のスタイルにお手本となるサンプルがたくさんあります。それがゴシックとパンクです。中世後期の悪趣味なほどの派手コーデ:ゴシックファッション、鬱屈した準階級的×不景気な社会から飛び出した強烈なアピールスタイル:パンク。
現代にあってそれぞれ進化したゴスロリ、パンクという2大派手カワ様式は、原色と原色、ディテールとディテール、そして柄と柄がぶつかり合って調和を生み出しています。とくにパンクファッションには、チェックオンチェックやチェック×アニマルのようなチェック絡みのコーデがたくさん見られます。
普段はちょっと手を出しにくい柄on柄のコーディネートですが、行き慣れたショップのアイテムだけのコーデから少しだけ冒険してみるのも面白いですよ。
「ハウスチェック」と呼ばれる柄があります。
ブランドや会社を代表するチェック柄の事で、バーバリー社のノバチェックや、柄にその名を冠したアンダーソン社、タッターソールのアレンジをしたダーバン社のものが有名です。特にバーバリー社では意匠権の問題でたびたび訴訟騒ぎになっています。もっともいわゆる「バーバリーチェック」は、その柄を見るだけで「バーバリー」という名前が想起されるほど高い認知度。ロゴよりむしろ柄の方が有名なくらいですから、まさに顔に泥を塗られて黙ってはいられないでしょう。
チェック柄の意匠には名作パターンからアレンジしたものが多く、いくつものブランドで酷似したパターンを使うことも間々あります。横断的に使われたパターンは陳腐化し、ブランドの打ち出した個性はボヤけてしまうでしょう。しかし今までになかったデザインを施して「この柄を見るとあのブランドを思い出す!」と消費者に言わせることができれば、類似柄が出れば出るほどブランドの知名度は上がるかもしれません。
新奇なデザインを誰よりも早く・大胆に使うことが、数も名前も売る正攻法。そういう力学がアパレル業界にある限り、これからも新しいチェック柄にたくさん出会える事でしょう。
数あるタータンチェックの中でもっとも有名なもの、それはおそらく“ステュアートクランタータン”です。ワンピース、スカート、帽子やネクタイといったファッションアイテムからノートや鉛筆、鞄やソファ、ベッド、壁紙に至るまで...およそ使えないところはありません。
この柄の主役は“赤”です。どっしりとした黒帯に守られた主縞は白・黒・黄色の細縞に飾られ、尊い微笑みを浮かべるような赤の輝きはまさに女王の品格。絶対主義王家ステュアートの佇まいです。このタータンが象徴した王家に劣らず、柄自体も世界に冠たる人気デザイン。そのアレンジも広く使われています、総じて品があってバランスも整った好デザイン!特にタータンとして登録されたものには、白地の“ドレスステュアート”、赤地の“ロイヤルステュアート”、黒ずくめの“ブラックステュアート”などがあり、更にはその他の豪族の名を冠したものにも、直接・間接問わず影響を受けたものが多いです。
そんなステュアートタータン一族の新しい仲間に“プリンセスダイアナメモリアル”があります。現イギリス王家ウィンザーに彗星のごとく現れたダイアナ妃。ダイアナ妃の名がついたタータンもいくつかありますが、全体を淡い色でまとめたこのステュアートアレンジは清涼感のある名作。精力的な活動によって慈悲・博愛を体現した妃の、チャーミングな微笑みが思われます。
ゼロから何かが生まれることはありません。カタチでも思想でも、全くの無から有が生まれるなど皆無です。何かがこの世に(頭の中の出来事も含めて)出現するとき、そこには必ず原因・源があります。
芸術もモノマネから入ります。山の緑は緑のままに、燃える炎は熱いままに、人の激情も激しいままに掬いだす。出来上がった作品が誰かしらの心を捉えると、その表現を源にした模写やオマージュが創られる。こうしたモノマネが人から人へ、社会から社会へ、時代から時代へと伝わり、やがて優れたアートは世界の隅々まで浸透することでしょう。
タータンチェックはスコットランドに生まれた工芸デザインです。その源泉は中世スペインのチリタナ模様と言われています。因みに同時期の日本では格子柄よりも縞柄が多く使われていました。これは東南アジアから入ってくる反物が流行った為で、この輸入布地は縦縞模様だったので“縞物”“島物”と呼ばれていました。先に縦縞が浸透していたため、格子柄も当時は“格子縞”と呼ばれて縞の一種として見られていたようです。
文化の伝わり方には同時代的な横の伝播と、定点的な縦の歴史があります。人の繋がりに縦と横の付き合いがあるように、デザインにも縦と横の繋がりがあって洗練があるのです。今こうして優れたチェック柄に囲まれて暮らしていけるのは、古今の優れたデザイナーによるモノマネと創造性のミクスチャーのおかげです。それをこうして眺めていられるのも、自分を取り巻く縦横の“縁”のお蔭かもしれません。チェックの格子の重なりに、技の伝播と心の伝播のありがたみを想い、合掌。