『装苑』。文化出版局刊行のファッション情報誌。月刊。
風を切って走る自転車、甲州街道大爆走。明大前の学生街と新宿駅の人の群れ。そういえばまだ管理人が杉並に住んでいた頃、都心へ自転車で出かけるには井の頭通りから渋谷を抜けていくよりも、甲州街道で新宿へ出る方がスムーズでした。渋谷は足で歩く街、新宿はタイヤで走る街。渋谷はいつも歩行者が多すぎて、どうしても自転車では抜けづらいのです。そんなわけで映画も買い物も暇つぶしも、基本はいつも新宿でした。
新宿副都心の入り口にさしかかると右手に見えるのが、文化服装学院と文化女子大が並ぶブロック。そこから出てくる女子学生たちはいたって普通の人々でした。まだ東京に出てきたばかりの管理人は「ファッションを学ぶ人はそりゃあもう派手々々ないでたちをしているものだ!」と決め付けていたので、平凡にカーディガンやセーターを着た人たちが出てくるのをみて、少しびっくりしたのでした。
南口のイタリアンで一緒にバイトをした娘だって、帰りの電車で他愛も無い冗談にケラケラと笑う普通の女の子。彼女もやっぱり文化女子の学生でした。でももちろん「眼を合わせるのも勇気がいるなあ...」といった装いのイケイケデザイナー志望の人々も結構いたわけです。察するにそれはファッションが、誰でも興味を持ち、魅了され、没頭できる文化だ、という証拠なんだと思います。
装苑の発行所文化出版局は、前出文化服装学院などを経営する学校法人文化学園の出版事業ですから、ファッション系出版社であり、教育系出版社でもあります。だからというわけでもないのでしょうが、装苑はファッションが好きというより、ファッションを生み出す過程が好きという人に発信された雑誌です。綺麗なモノ・可愛いモノ・カッコいいモノが出来上がっていくのが好きな人に向けた雑誌。子供の頃にやっていた、折り紙・手編み・落書きといった一人遊び。綺麗な柄の包装紙やお菓子の缶がどうしても捨てられなかった経験。それはみんなファッション創作の入り口といえます。 全ての人に開かれた、ファッション業界への入り口。
管理人は主にチェック柄情報を得る為に、雑誌を読むというよりは流して見ていきます。ですがこの装苑に関して言えば、チェックにこだわらずともハッ!とするページがあって、センスの糧になるひと時を貰えます。
情報とは南の海の砂のようなもの、手で掬った端からサラサラと零れ落ちていきます。いつまでも残っているのは思い出、ふと見上げた海の碧さが眼に焼きついて離れないようなものです。机の引き出しに溜まりに溜まった、どこかで拾った奇妙な石や好きな人の写真といったコレクションの数々。そんな煌めきをたくさん集めた雑誌が装苑なのかもしれません。